ファインダー
今週のお題「あの人へラブレター」
私は既婚者でもあるし、普通ならば、妻に対しての想いや思い出を書くのだろうが、やめておこう。
恥ずかしいとかではない。
いくらネット上で愛を叫ぼうが、本人に伝わらなければ意味はないし、意味不明だ。
中学3年のときから飼っていた猫は、去年死んだ。19才だった。
たくさん写真を撮っておけばよかった。もっと可愛がってやればよかった。あんなにひどく叱らなければ。
後悔の念ばかりが先立つ。
可愛い奴だった。
中3の夏休みが始まって間もない頃、近所にあった小さな商店の中で預けられていた。
グリーンの瞳。大きな耳。猫缶のパッケージに使われていそうな、ザ・ネコ といった顔。
手のひらに乗せられるくらい小さかった。
アパート暮らしだったのでペット禁止だった。
母に、双子の兄と共に懇願して、自宅へ連れて帰った。
私たち一家は引越しを何回もしている。
猫もずっと一緒だった。
福岡県から京都へ引越したときも、新幹線の轟音と振動の中、ニャァニャァ鳴いていた。
「今朝、のんたんが亡くなりました。」
メールを見て、すぐに自宅へ向かった。
温かくて柔らかだった細い毛は、冷たく湿っていた。
涙が止まらなかった。
悲しみの中で切るシャッターは、渇いた音がする。
ピントや露出が合っていたかどうか分からない。
ファインダー越しに見る猫は、本当にオマエなのか。
自分でも馬鹿げた行為だと思う。
アラーキーの真似をしてカッコつけたかっただけかも知れない。
生きているときに、元気なときに撮るべきだ。
のんたん ありがとう。
また会おう。
人間も動物も植物も空も海も山も、みんな死ぬ。
ファインダー越しの世界は、私に時折「死」を連想させる。